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一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑭

身内が臨終する際には不思議な体験をするという。 実際に自分が直接聞いた話もいくつかある。 そして、私もその体験をすることとなった。 その日、私は出身高校の文化祭を訪れていた。 柔道のOB戦に出場するためである。 公式戦で …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑬

病状が快方へ向かうと、その患者のまわりの空気は一変する。 家族のみならず、医師や看護師も余裕を持って接するようになる。 また、少しでも平常の生活に戻すために前向きの行動が増えてくる。 このことは、何よりも母や家族を元気づ …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑫

1度目の危篤を乗り越えてから母の様態は急激に改善した。 まず、数ヶ月にわたって塞がらなかった手術のメスの跡がふさがった。 後にベテランの看護師が「この傷は絶対に塞がらないと思っていた」と打ち明けてくれたが、やはりそのレベ …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑪

人の生命をあずかる病院ほど人間模様が浮き彫りになる場所はない。 重症患者の病棟となればなおさらだ。 様々な患者が命と向かい合い、医師も看護師もいろいろである。 飯屋の一件依頼、できるだけ客観的に現状を受け止めるようにと自 …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑩

こうなると飯屋のオヤジが無口なのも有り難かった。 こちらは数カ月間に渡り食欲もないので、私が店を訪れるタイミングは、メンタル的にどうにもならないことが生じて、夜の街に出ざるを得ないときだったので、真っ青な顔をしていたり、 …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑨

母の顔に表情が戻っていった。 うなされ続けた数ヶ月が嘘のように会話もするようになった。 ある意味予想していたことではあるが、驚いたことに一度目の手術が終わって自分たち家族と対面した直後から意識を失って奇跡的に目覚めたとき …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑧

病院に親戚が続々と集まってくる。 順番に母の枕元へ行き、涙ながらに別れのことばを発するのだが、相変わらず私には「その時」がくる実感が湧かなかった。 意識はないのだが、顔色は苦しんでいるときと比較してもむしろ良くなっている …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑦

主治医が親戚に集まってもらえと指示を出したのは日曜日である。 私はその日、日本武道館で柔道の試合に出場していた。 ろくに練習もできていない状況であったが、個人戦の試合にでていた。 折しも、自分の最後の試合中に館内放送が流 …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑥

2度めの手術が終わってからというもの、母の様態は急変した。 麻酔が醒めても、意識はずっとはっきりしない。 常にうなされている感じだった。 少し落ち着いているときは会話もするが、すぐに話の脈絡がおかしくなる。 「弟が訪ねて …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)⑤

肝癌の手術が終わり、麻酔も醒めてまだ数時間というのに、もう一度同じ規模の手術を行うという。 その時点で母の腹部は、胸骨の下、つまりみぞおちのあたりから右側の背中にかけて40cmほど裂かれている。 縫合したところを開くわけ …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)④

母の肝癌の手術は主治医の話によると6時間ほどの手術ということだった。 家族にとっては大手術であるが、当時の外科的手術としては、それほど珍しくないという説明を受けた。 午前中から始まったが、その間、家族はただ待っているしか …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)③

昭和の医師と令和の医師では患者から見た立場が全く違う。 いまでこそ、セカンドオピニオン(他の医師の意見)やらインフォームドコンセプト(説明と同意)なることばが一般的になってきたが、当時は患者側の知識や判断力も乏しいため、 …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)②

覇気がなく「だるい」を口にすることの多くなった母が検診を受けたところ「要医療」という判定が戻ってきた。 検診の判定区分は大きく「異常なし」「要観察」「要精検」「要医療」に分けられる。 要観察までは、直ちに病院へ行く必要は …

一分の救い(ノンフィクション風の物語)①

本当に気が狂いそうだった。 一生のうちで、精神のバランスが振り切れてしまう経験など、そう何度もすることでもないし誰もしたいとも思わない。 しかし、場合によって、人によって、その時が人生に訪れることもある。 「死ぬ気になれ …

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