水泳帽に黒ライン3本(感動的想い出シリーズ)2

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小学校の夏休み、水泳5級の進級試験。
1年生のときである。
どんな泳ぎ方でも良いので、10m泳ぎきれば5級(帽子に白ライン2本)がもらえるのだが、これは当時の私の泳力でギリギリのラインだった。
息継ぎがうまくいけば泳ぎきれるが、どうもうまくいかないことが多い。
本人は息をしたつもりが実は水を飲んで咳き込むというあれである。
息継ぎに失敗すればついつい立ってしまうといった具合であった。

そこで、「(古式泳法の)ノシならできるぞ」と豪語していた父とその対策について白熱した議論をしつくした結果「息継ぎをできるだけしないで、いけるところまで行ってしまおう」というすばらしい作戦にたどり着いた。今にして思えば「そんなのは作戦でもなんでもないし、そもそも息継ぎができるようになっていない子が、たまたま合格したところで、それはたまたまサイコロの目を言い当てたようなもので実力ではないのではないか。だとしたら進級テスト自体を見送ったほうが良いのではないか」と考えられるのであるが、何をおいても帽子の白ラインがもう1本ほしかった内山少年とその思いを叶えさせたい父親は、迷わずに挑む選択をしたのであった。
その夜、父と一緒に畳の上で、肘が擦り切れる勢いでクロール(といっても傍からみたらバタ足をしている子が同時に両手で猫パンチをしているようにしか見えないとは思う)の練習をした。
イメージでは、一度も息継ぎをしないで泳ぎ切ることができていた。

しかし、、、現実はそんなに甘くはない・・・。

翌日、父が試験の様子を見学に来た。
父がこういった私の試験や試合とかに顔を出したのは、私の記憶では後にも先にもこのときだけである。中学から柔道をはじめ高校ではそれなりの実績もおさめたのだが、一度も試合場に来たことはない。

プールの大きさは25m×10m。
つまり、短い方のへりからへりまで泳ぎきれば5級である。
進級試験では、お互いがお互いを大きな声で応援する。先生も応援する。

私の試験の番が来た。
いつもなら、プールサイドに座った状態から、ざぶんと前向きに入水するのだが、このときばかりは和服を着たおしとやかなお姉さんのごとく(知らんけど)、ゆっくり後ろ向きにオヨヨと入水し、水中で回れ右をして進行方向を向いた。

ゴール地点(つまり向こうのへり)には、審判の先生とたくさんの応援の子供たちがいる。たった10mなのだが、はるか彼方に見えた。
開始のホイッスルが鳴る。
前日に父と練習した内容が脳裏をよぎる。
「まずはこれ以上吸えないくらい息を吸って・・」
「きちんと潜ってから、壁をこれ以上蹴れないくらいの力で蹴る」

よし、いくぞ。
まずは息だ。
・・・しかし、通常とは違う緊張感の漂う中、内山くんの肺は息を十分には吸い込めなかったのである。ならば、潜る前にやり直せば良いようなものだが、流れにのって、潜ってしまった。

第1段階で躓いたまま、内山くんの進級試験は始まった。
(つづく)

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