水泳帽に黒ライン3本(感動的想い出シリーズ)4

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5級の進級試験で10mのプールの端にたどり着いた内山くん。
引き上げられた私に応援してくれた友人や先生が「合格だ」と盛大な拍手と声援を送ってくれた。

しかし、このとき、、、

実は、右手がプールサイドをたたく直前に、右足の親指の爪がプールの底に触れていた。
あたりまえだが、小学校のプールは浅い。
しかも、1年生の試験は最も浅い場所で行われている。
小柄な私でも、充分に立てる深さであった。

最後の1mは、泳いでるのか溺れているのかわからないような状況で、しかも足指は底にかすっただけなので、私以外には誰も気づかなかったと思う。
(もし、足の底がついていたら、立ち上がってしまったことだろう。)

私は、反射的に金網越しに見ていた父に目を向けた。
父は、私に「勉強をしろ」とか「〇〇を習え」という類のことを言ったことがない。
ただ、ひとつだけ厳しくいわれていたことがある。

「正直でいろ。ごまかすな。」

ということである。

そんなこともあり、私は、父に審判を仰いだのだと思う。
しかし、その父は、喜びを噛み締めているように笑っていた。
それはそうだ。父も、私が泳ぎきったと思っているのだから。

その後、私は流れに任せて5級の証書と帽子に縫い付ける白いラインをもらい帰宅した。
その頃の我が家は自宅の隣に父の経営する工場があり、父は仕事をしていた。
母は、家にいて結果を話すとすこぶる喜んでくれた。

その日、父か母に秘密をを打ち明けるか否か、小さな頭で悩んでいた。
父に話せば、まずは「なぜそのときにいわなかった」と叱られる、そしてそのあと親身に相談に乗ってくれると思う。
母に話せば、父に自分で話せといわれる。ただ、母のほうが話しやすい。
夜になって「とりあえず母には話しておこう」と思ったのだが、ちょうどそのとき母が水泳帽に白ラインを縫い付けてくれていた。
その姿はとても嬉しそうだった。
その光景を見て、私はついに秘密を誰にも打ち明けることができなかった。
(つづく)

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